エーオンが提供するグローバル リスクマネジメント調査は、61の国と地域のリスク管理者、経営幹部や人事部門の責任者など約3,000名から情報を集約し、最も重要な経営課題について明らかにしたものです。2年ごとに調査を実施しており、今回が9回目となります。
日本企業が直面しているリスクトップ10
日本企業の回答で1位にランクされたのは、前回10位であった「サプライチェーンや流通の途絶」です。これは記憶にも新しい半導体不足による製品生産の滞りが大きく影響したと考えられます。さらに日本企業のサプライチェーンに対しても影響を及ぼす地政学的緊張の高まり、また2024年4月からトラックドライバーの残業時間が制限されることに起因する「2024年問題」も同リスクが最重要課題と認識する理由になったことが考えられます。
続いて2位に「市場動向の急激な変化」(前回1位)、3位に「サイバー攻撃/情報漏えい」(前回5位)がランクインしました。 引き続き「市場動向の急激な変化」が上位にランクされているのは、上述の世界情勢の複雑化や人工知能等を活用した技術革新とそれに伴うデジタル規制等を、日本企業が予測不可能なリスクとして捉えていることが要因であると推察されます。「サイバー攻撃/情報漏えい」はグローバルでは1位にランクされるリスクであり、日本ランキングにおいても前回より順位が上昇しています。サイバー脅威に対する認識が高まっている世界的な傾向が見てとれると同時に、サイバー攻撃はサプライチェーンや4位にランクされた事業中断とも密接に関係していることから、今後日本企業にとってもさらに対応を迫られるリスクである事が予想されます。
また、日本の上位5つのリスクのうち4つは、グローバルのトップ10リスクにも含まれていますが、それらのうち3つのリスクへの対応計画を策定している企業の割合は、グローバル企業よりも低いことも明らかとなりました。このような対応の遅れは、欧米と比較してプロテクションギャップが大きいことへの一因にもなっています。特に「事業中断」による損害は、日本企業がトップ10リスクに挙げる「サプライチェーンや流通の途絶」、「サイバー攻撃/情報漏えい」や「気象/自然災害」等からも派生するものです。自社の資産に対する物的な損害のみならず、自社のサプライチェーン等 に起因する事業中断についても対応を検討していく必要があります。
人的資本が重要なビジネスリスクとして浮上
特筆すべきなのは、5位にランクされた「優秀な人材の流出や確保不能」です。このリスクはグローバルでも4位にランクされています。前回調査時には日本とグローバルともにトップ10入りしておらず、ここ数年の経営層による人的資本経営に向けた意識や取り組みの変化が表れています。 経済のボーダレス化やデジタルトランスフォーメーション/従業員体験向上やリスキリングへの取り組み、さらにはインフレに伴う賃金上昇も伴い、優秀な人材をいかに採用・確保するかは企業にとって避けることのできない問題です。また、製造業における熟練技術者やサービス業における専門人材の高齢化もランクインの一因になっていると考えられます。
人工知能やデジタル化等を通じた業務の効率化によって、労働人口の減少を一部埋め合わせることができたとしても、企業が競争力を高め持続的に成長をしていくためには、人材への積極的な投資を通じ、優秀な人材を採用・確保していくことが不可欠です。人材や専門的なスキルの欠如はイノベーションを阻害し、サプライチェーンや事業中断リスクを高めることにもつながります。日本企業で長く続いた終身雇用や年功序列制度から、優秀な人材を処遇できるようなメリハリのある人事・報酬・評価制度への見直しを図るとともに、人材確保の観点から多様化するライフスタイルに対応した就業面での福利厚生制度・ウェルビーイングの施策も検討していく必要があります。
日本 トップ10リスク
- サプライチェーンや流通の途絶
- 市場動向の急激な変化
- サイバー攻撃/情報漏えい
- 事業中断
- 優秀な人材の流出や確保不能
- 気象/自然災害
- 景気後退/回復遅延
- 地政学的な不安定さ
- 環境・社会・ガバナンス(ESG)/企業の社会的責任(CSR)
- 製造物責任/製品の回収
グローバル トップ10リスク
- サイバー攻撃/情報漏えい
- 事業中断
- 景気後退/回復遅延
- 優秀な人材の流出や確保不能
- 法規制の変更
- サプライチェーンや流通の途絶
- 物価変動/原材料・資源の不足
- 風評被害/ブランドの毀損
- イノベーション/顧客ニーズへの対応の失敗
- 競争の激化