レポート
2023年8月31日
令和5年 有報開示における
サステナビリティ・多様性・人的資本等に関する各社開示の状況
*図表は当社ウェブサイト掲載の都合上、色味のみ調整を行っています。
2023年1月31日改正の企業内容等の開示に関する内閣府令の改正点を踏まえて開示された、2023年3月期の有価証券報告書では、新たに、多様性に関する開示、サステナビリティに関する開示が求められるようになったことを受け、本稿では、多様性に関する開示、サステナビリティに関する開示及び人的資本に関する開示について、エーオン役員報酬プラクティス調査に参加している大手金融機関に加え、開示好事例として注目される各社も加えた、24社を対象に開示状況を紹介する。
- 多様性に関する開示では、各社ともに求められる3指標を開示している。しかし、対象企業をどこまで広げるかという点や、職系やコース等の区分に沿ってどこまで詳しく開示するかで差が出ている。
- サステナビリティに関する開示では、TCFD提言のフレームワークに則った構成で開示をする例が大半であるものの、単にこのフレームワークに沿って開示するだけでなく、サステナビリティ/気候変動/人的資本といったテーマごと区分し、それぞれの中でガバナンス/戦略/リスク管理/指標及び目標を開示する例など、自社の戦略と絡めてストーリーとしていかに説得力のある開示とするかという各社の姿勢が現れていたと言える。
- 人的資本に関する開示も、サステナビリティに関する開示の一要素として位置づけるものから、独立した章を設定して各社の人材戦略上の位置づけから重要指標を定義し、その取り組みや具体的施策を詳述する開示例もあるなど、各社における人的資本施策の位置づけが垣間見える結果となった。
1. 今回の改正開示府令のポイントのおさらい
多様性に関する開示
- 第1【企業の概要】の「従業員の状況」 において、多様性に関する3指標 (管理職に占める女性労働者の割合 / 男性労働者の育児休業取得率 / 労働者の男女の賃金の差異) が求められるようになった。
サステナビリティに関する開示
- 第2【事業の状況】に「サステナビリティに関する考え方及び取組」が新設された。
- サステナビリティに関する考え方と取り組み状況として、ガバナンス、リスク管理についての記載が求められるようになった。また、戦略、指標及び目標のうち、重要なものについての記載も求められるようになった。
- 人的資本に関する戦略並びに指標及び目標についての記載が求められるようになった。
2. 各社の開示状況についての所見と事例紹介
多様性に関する開示
各社の開示状況
多様性に関する3つの指標については、各社ともに、今回の開示によって求められる内容に関しては開示されている。今回の改正では、有報提出会社の情報が求められるが、主要な連結子会社についても開示している企業も見られた。従業員の多くが事業会社側に属しており、連結子会社側の情報を開示する方が、より自社の実態を正しく開示することにつながるという配慮によるものと思料される。
SMFG1は、三井住友銀行等についてはコース別での各指標開示も行っている。
豊田通商2は、男女別賃金差異について、正規雇用/有期労働者が低い理由について補足している。
サステナビリティに関する開示
開示のフレームワーク
サステナビリティに関する開示については、各社、ガバナンス/戦略/リスク管理/指標と目標という枠組みに沿って開示している。この枠組みは、TCFD提言に則ったもので、気候変動についての取り組みを想定したものである。今回の開示府令改正においては、気候変動に限らず、サステナビリティ全体についてこの枠組みで開示することを求めている。各社開示は大きく2通りに整理できる。一つは、全体をこの枠組みに沿ってまとめ、その中でテーマを分けて記載する手法である。もう一つは、サステナビリティ共通/気候変動に関する取組み/人的資本・多様性等の大テーマごと区分し、それぞれの中でガバナンス/戦略/リスク管理/指標及び目標の枠組みで開示するものである。
「サステナビリティに関する考え方及び取組」の頁数(10頁以上であった企業)
今回分析対象とした24社のうち、サステナビリティに関する考え方及び取組についての開示が10頁を超える分量であるのは、以下の9社であった。
もちろん、開示の充実度は分量のみで評価できるものではなく、数頁の開示であっても必要な情報が盛りこまれており、背景となる戦略や方針とあわせて説得力ある開示となっている例も多い。
一方で、以下企業の開示では、統合報告書やサステナビリティレポート、中期経営計画と言った、既に投資家向けに発表している情報との関連性が分かりやすいように、それら開示にて説明しているコンセプトや考え方、マテリアリティ等に関する説明を踏襲しつつ、効果的に図表やイラストを用いて説明している点、参考になると言える。
個別事項
【ガバナンス】
ガバナンスについては、各社、サステナビリティに関する委員会等の所管組織を設け、それについて説明する例が多かった。サステナビリティに関する取り組みは、全社横断的な判断が必要になる事項も多いことから、役員以下の各キーパーソンの役割を明示し、サステナビリティ担当者のみならず、取締役や監査役、あるいは経営委員会等がどのようなロールを担ってサステナビリティを推進すべきかに踏み込んで開示することができるとなお良いと言える。
伊藤忠商事3は、サステナビリティに関する取組み体制について、各意思決定機関の役割を明示する。
【リスク管理】
リスク管理に関しては、何をリスクと考えているかという各社のフレームワークを紹介した上で、具体的なリスク項目を開示している例が多かった。併せて、それを支える体制面についても十分な説明が求められる。
例えば、SMFG4は、①リスクアペタイト・フレームワーク/トップリスク、②デューデリジェンス、③セクター方針とし、リスク管理に関する考え方であるリスクアペタイト・フレームワークについて紹介した上で、リスク評価の内容、環境・社会に影響を与える可能性が高いセクター・事業に対する方針をそれぞれ明確化している。 |
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【戦略】
戦略に関しては、自社の方向性や中長期の計画との関係性を踏まえて、ストーリーとして開示していくことが重要である。また、その際、長期的なビジョンと向こう数年及び当期といった、時間軸についても言及するとより効果的である。
三菱商事
5は、気候変動リスクに対処する戦略について、ポートフォリオの脱炭素化と強靭化への取組について説明した上で、気候変動関連のリスク及び機会に係るシナリオ分析において、気候シナリオの考え方や分析対象事業を明示し、関連する事業ごとに具体的な事業方針を詳述している。
また、同社は、人的資本に関する戦略についても別に章立てして説明している。この中では中期経営計画における人事施策の位置づけについて述べた上で、人材戦略としてダイナミックな人材シフト・登用、エンゲージメント強化及び事業環境の変化への対応力強化について、エンゲージメント強化としてダイバーシティ、エクイティ&インクルージョンやウェルビーイング、キャリア自律等について施策の内容を具体的に開示している。
双日6では、中期経営計画における戦略の前提である、脱炭素に向けたロードマップを紹介し、2050年を見据えた目標、実施事項を開示している。
【指標と目標】
指標と目標に関しては、具体的指標を開示することに加えて、それが自社にとって(財務的な影響を含めて)どのような意味があり、なぜ選定したかも併せて開示するとより説得力が増すと言える。
SOMPO HD7は、リスクと機会を評価するための重要な指標を一覧で掲載した上で、それぞれの具体的な目標についても紹介している。
人的資本に関する開示
人的資本に関する開示は、開示に関する内閣府令の位置づけでは、サステナビリティに関する開示の一要素として位置づけられるものであるものの、各社の開示手法は多様であった。
双日8は、人的資本に関する基本方針を示した上で、ガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標をそれぞれ開示している。
施策ごとに人材KPIを設定し、その進捗と目標を一覧化している。
女性活躍については、戦略上の重要性を訴えた上で、階層別に2030年代に向けた目標を設定、開示。
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- SMFG 2023年3月期 有価証券報告書https://www.smfg.co.jp/investor/financial/yuho/2023_pdf/2023_fy_fg.pdf
- 豊田通商2023年3月期 有価証券報告書 https://www.toyota-tsusho.com/ir/library/securities-report/upload_files/102nd_yuho_ALL.pdf
- 伊藤忠商事2023年3月期 有価証券報告書 https://www.itochu.co.jp/ja/files/security_99.pdf
- SMFG 2023年3月期 有価証券報告書 https://www.smfg.co.jp/investor/financial/yuho/2023_pdf/2023_fy_fg.pdf
- 三菱商事2023年3月期 有価証券報告書 https://www.mitsubishicorp.com/jp/ja/ir/library/fstatement/pdf/2022_04/y2022_04.pdf
- 双日 2023年3月期 有価証券報告書 https://www.sojitz.com/jp/ir/reports/vsecurity/upload/20230620.pdf
- SOMPO HD 2023年3月期 有価証券報告書
- 双日 2023年3月期 有価証券報告書 https://www.sojitz.com/jp/ir/reports/vsecurity/upload/20230620.pdf
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